「いびきくらいで命に関わることはない」と思われがちですが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に心臓や血管へ繰り返し負担をかける病気です。日本循環器学会のガイドラインでも、睡眠時無呼吸は高血圧や心房細動、心不全、脳卒中などと深く関係する病気として位置づけられています。
千里クリニックのコラムではこれまで、血管年齢やABI検査、頸動脈エコー、心エコーなど、血管と心臓の健康についてお伝えしてきました。今回は、睡眠時無呼吸症候群が心臓・血管に与える影響と、循環器の病気との関係を、ガイドラインの数値を交えて分かりやすく解説します。
眠っている間に体の中で起きていること

睡眠中に気道がふさがって呼吸が止まると、体の中では次のような変化が一晩に何十回、何百回と繰り返されます。
- 酸素が下がる:呼吸が止まることで、血液中の酸素濃度が低下します。
- 胸の中に強い陰圧がかかる:ふさがった気道で無理に息を吸おうとするため、胸の中の圧が大きく下がり、心臓に負担がかかります。
- 交感神経が高ぶる:苦しさから脳が一瞬目を覚まし、体を緊張させる交感神経が働きます。
- 血圧と脈拍が急上昇する:呼吸が再開する瞬間に、血圧や心拍数が急に上がります。
本来、睡眠中は血圧や心拍数が下がり、心臓や血管が休む時間です。睡眠時無呼吸症候群では、この「休むはずの時間」に負担が繰り返されることが問題になります。低酸素と再酸素化の繰り返しは、血管の内側の細胞(血管内皮)に炎症や酸化ストレスを起こし、動脈硬化を進める要因の一つになると考えられています。
循環器の病気との合併頻度
日本循環器学会の「2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」では、さまざまな心臓・血管の病気で睡眠時無呼吸を合併する割合が高いことが示されています。
| 病気・状態 | 睡眠時無呼吸の合併頻度(ガイドラインより) |
|---|---|
| 高血圧 | 高血圧患者の59%にAHI 5以上の睡眠時無呼吸 |
| 治療抵抗性高血圧(薬を複数飲んでも下がりにくい高血圧) | 83%(AHI 10以上) |
| 心房細動 | 81.4%に睡眠呼吸障害(AHI 5以上) |
| 心不全(収縮機能が低下したタイプ) | 76%(AHI 5以上)、47%(AHI 15以上) |
| 急性冠症候群(心筋梗塞など) | 49.6%(AHI 15以上) |
| 脳卒中 | 71%に睡眠呼吸障害(AHI 5以上) |
| 大動脈解離 | 61〜82% |
これらの数値は研究ごとの対象や検査方法によって異なり、睡眠時無呼吸があれば必ずこれらの病気になるという意味ではありません。しかし、心臓や血管の病気を持つ方の中に、睡眠時無呼吸が隠れていることが少なくないことが分かります。
高血圧:とくに「夜間・早朝の高血圧」に注意
ガイドラインでは、睡眠時無呼吸の患者さんの約半数に高血圧が合併するとされています。睡眠時無呼吸による高血圧には、次のような特徴があります。
- 本来下がるはずの夜間の血圧が下がりにくい
- 朝起きたときの血圧が高い(早朝高血圧)
- 血圧の薬を複数飲んでいても目標まで下がりにくい
診察室では血圧が正常でも、家庭で測る朝の血圧が高い方もいます。起床後1時間以内、排尿後・朝食前・服薬前に家庭血圧を測ると、こうした変化に気づくきっかけになります。血圧がなかなか下がらない方は、生活習慣や薬だけでなく、睡眠の状態も確認してみましょう。
心房細動などの不整脈
心房細動は、心臓の上の部屋(心房)が細かく不規則にふるえる不整脈です。心房の中に血液のかたまり(血栓)ができやすくなり、それが脳に流れると脳梗塞の原因になります。
睡眠中の低酸素や胸の中の圧の変化、交感神経の高ぶりは、心房に負担をかけ、不整脈を起こしやすくすると考えられています。ガイドラインでは、重症の睡眠時無呼吸の方で心房細動のリスクが高くなることや、心房細動の患者さんで睡眠呼吸障害の合併が多いことが示されています。動悸や脈の乱れを感じる方、心電図で不整脈を指摘された方は、睡眠の状態にも目を向けることが大切です。
心不全
心不全は、心臓のポンプ機能などが低下し、体に必要な血液を十分に送り出しにくくなる状態です。睡眠時無呼吸による夜間の負担は心不全を悪化させる要因になり、反対に心不全があると、呼吸の指令が乱れる「中枢性睡眠時無呼吸」が起こりやすくなることも知られています。
息切れやむくみがある方、心エコーで心臓の機能低下を指摘された方は、睡眠中の呼吸の状態も含めて評価することがあります。心エコー検査については、第5回コラム「心臓エコーと心電図の違い」で詳しく解説しています。
脳卒中・動脈硬化
ガイドラインでは、睡眠時無呼吸のある方は脳卒中のリスクが約2倍(ハザード比2.0)になるという研究が紹介されています。高血圧や心房細動を通じた影響に加え、低酸素の繰り返しによる血管の炎症も、動脈硬化を進める要因の一つと考えられています。
動脈硬化の進み具合は、首の血管を観察する頸動脈エコーや、手足の血圧から血管の状態を調べるABI検査などで確認できます。詳しくは第4回コラム「頸動脈エコーで防ぐ脳梗塞」、第1回コラム「血管年齢が数分でわかる!ABI検査とは?」もご覧ください。
CPAP治療で期待できること
中等症以上の睡眠時無呼吸症候群では、寝ている間に鼻から空気を送り込んで気道が閉じないように保つ「CPAP(持続陽圧呼吸療法)」が治療の中心になります。CPAPを継続して使うことで、いびきや無呼吸が減り、日中の眠気や熟睡感の改善が期待できます。
また、CPAPによって血圧がある程度下がることが報告されており、特に夜間や早朝の血圧が高い方、薬で血圧が下がりにくい方で効果が期待されています。一方で、CPAPが心筋梗塞や脳卒中などをどこまで予防できるかについては、研究によって結果が分かれており、使用時間が短いと効果が得られにくいことも指摘されています。CPAPは「毎晩しっかり使い続けること」が大切な治療です。
血圧、体重、血糖、脂質などの管理とあわせて、睡眠時無呼吸の治療を生活習慣病の管理の一部として考えることが、心臓と血管を守ることにつながります。
こんな方は睡眠のチェックを
- 血圧の薬を飲んでいても、朝の血圧が高い
- 心房細動などの不整脈を指摘されている
- 心不全や心臓病で治療中で、夜間に息苦しさがある
- 健診で動脈硬化や血管年齢の高さを指摘された
- いびきが大きい、寝ている間に呼吸が止まると言われた
- 日中の眠気が強い、朝の頭痛がある
よくある質問
Q. 睡眠時無呼吸を治療すれば、血圧の薬はやめられますか?
CPAPなどの治療で血圧が下がることはありますが、薬をやめられるかどうかは血圧の値や持病によって異なります。自己判断で薬を中止せず、家庭血圧の記録をもとに医師と相談しながら調整しましょう。
Q. 不整脈の治療中ですが、睡眠の検査も受けた方がよいですか?
心房細動などの不整脈がある方は、睡眠時無呼吸を合併していることが少なくありません。いびきや日中の眠気がある場合は、睡眠の検査について主治医にご相談ください。
津市で心臓・血管と睡眠をまとめて相談するなら
睡眠時無呼吸症候群は、いびきや眠気の問題にとどまらず、高血圧や不整脈、心不全、脳卒中など、心臓と血管の病気と深く関係しています。血管年齢や血圧が気になる方こそ、睡眠中の呼吸にも目を向けることが、将来の大きな病気を防ぐ第一歩です。
三重県津市の千里クリニックでは、血圧・心電図・心エコー・頸動脈エコー・ABI検査などで心臓と血管の状態を確認するとともに、ご自宅でできる睡眠時無呼吸の簡易検査やCPAP治療にも対応しています。血圧が下がりにくい方、不整脈やいびきが気になる方は、診察時にご相談ください。
参考:日本循環器学会「2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」、日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」。本文中の合併頻度はガイドラインに引用された研究による数値で、対象や検査方法によって異なります。

